今日は、私がいかに純粋な人間であるかということをお話ししようと思う。
誰が興味あんねん!(ギブソン風に)
退職・転職のあれこれや、どのようにして今に至るかは、長くなるので時系列に沿って少しずつ書いていこうと思っているのだけれど、今日はそのスピンオフを。
昨年夏の終わりに、当年度末での退職を申し出たので、実際の退職日まで半年以上あり、私は絶妙に微妙な気持ちで仕事を続けていた。
退職を決心するまでも悩みに悩んで、数か月間ずっと、朝起きてから寝るまでほとんどそのことを考えていた。
転職して失うものと得られるもの、その後の生活のシミュレーション、不確実なことを考えるのはすごく不安だったが、かといってこのまま同じことをここで続けていたら、何か自分の可能性を発揮しきれずに一生を終えそうな気がして、それはやっぱり嫌だった。
だから、辞める方に寄せるよう、どちらかというと辞めることを後押ししてくれる情報を集めていた。
しかし、退職を決めた後は、決める前と見える景色が変わってしまった。
今の職場の良いところが今まで以上に見えてきたり、辞めずにこれからも続けていく仲間の方が正しく思えたり、自分は単に仕事に飽きてしまっただけなのではないか、もう一度ここで気持ちを仕切りなおして、ここでやっていくのが正解だったのではないかと、今度は辞めなかった場合の未来の方が良かったように思えてきた。
隣の芝生は今日も瑞々しく青々と、びっちり生い茂っている。
職場では、年に1、2回ほど、グループ会社全体で行う、経験年代別の社内研修があった。
接遇やコミュニケーション、メンタルヘルス、部下の指導法、クレーム対応など、その年代に応じたテーマについて、外部講師を招き、半日かけて学ぶ研修である。
その研修が年末にあった。
会社にコストをかけてもらって外部講師の研修を受けても、あと半年も経たないうちに、私は退職してしまう。
私の退職はまだ発表になっていないので、少し申し訳ないばつの悪い気持ちと、この研修の内容をここで活かすことはもうない、ここにいる人たちとはもう違うレールに乗ってしまったという寂しさを隠して、研修に参加した。
講義の合間のグループワークに、2人1組になって、一方が自分の悩みを話してもう一方が聞くというものがあった。
私の相手は、土田瑛士さん(仮名)。
年の頃も似たような感じかな。
同じグループだが違う施設の所属で、部門も違うので、存じ上げない人だった。
そこで私は、今の自分の1番の悩み、
「退職願い出したことを後悔してるんです(泣)!」
とは言えず、
「うちの部門は、経験年数の若い人と、管理職など古い人がほとんどで、中間の世代が少ない。
ある程度経験を積んで動けるようになったら出て行ってしまう人が多い。
中堅層が続けたくなるような魅力がないのだろうか。
基礎ができるようになった人が、さらにここで発展していけるような魅力のある組織にしたい。
そういう私も、今あまり熱中できていないし、ここでしていきたいことがみつけられていない。」
ということを話した。
これらも実際に感じていたことではある。
私の職種は技術職で資格があるので、スキルアップのために職場を変える人は多い業界ではあるのだが、「育ったと思ったら出て行ってしまう」という現象は、やはり課題の1つであった。
かくいう私も、数か月後には辞めるのだが……
私の悩みを聞いた土田さんは、
「うわーーー、わかるわーーー!!!
ちょっ、えー!?わかるーーー!!!
あーほんま、一緒やわーーーーー!!!」
眉間にしわを寄せ、苦悶の表情を浮かべて、大きく頷き、それはそれは尋常じゃない共感具合だった。
私自身も停滞しているということに対しても、
「でもそういう時は、環境を変えるっていうのもいいんじゃないかな。
変えるって、別に辞めるとかじゃなくて、異動するとか。
そういう時期あるよねー。」
というアドバイスをくれた。
胸が痛んだ。
聴き方の講義だったので、アドバイスの内容は、ワークの主題ではなかったが、
土田さんの尋常じゃない共感具合を見て、私は揺さぶられた。
あー、同じような経験年数の人は、同じようなことで悩んでいるんだな、
私だけじゃなかったのだ。
施設も職種も違うけれど、こういう同格くらいで、同じ悩みを共有できる人が側にいたら、
私ももう少し頑張れたのかもしれない。
私に退職は勧めず、異動して心機一転やってみることを提案してくれた。
土田さんは、同じような葛藤を抱えながらも、この組織にコミットしているんだな。
「こっちに異動して来いよ!」
「俺たちは辞めたりせずに、ここでやっていこうぜ!」
「一緒にがんばってグループを盛り立てていこうぜ!!」
そういうメッセージにも思えた。
そういえば、経験年数が上がるにつれ、同じ部門の同期や近しい先輩後輩も退職して少なくなり、同格の仲間は各施設のリーダーとしてそれぞれに異動し、ちりぢりになっている。
物理的距離が遠いと、お互い忙しく、こまごましたことを話す機会がない。
こういう、同じような悩みを抱える仲間とそれをシェアして横のつながりをもっと意識していたら、一緒に協力して、ここでもっとおもしろいことをやっていけたのかもしれない。
私、自覚してる以上に、実は1人でいろいろ抱え込んでいたのかなあ。
もっともっと仲間といろいろ話して相談すればよかった……
研修が終わってしばらく、
土田さんのような、思いを共有できる仲間がいるのに、その横のつながりを忘れていたこと、
仲間にもっと相談していたら、ここで心機一転して続けられた可能性があったこと、
一緒に頑張ろうと励ましてくれた土田さんを裏切ってしまうことに、
さらに退職への後悔の気持ちや辞める罪悪感を刺激されていた。
土田さんともっといろいろ話してみたいなあ。
辞める時には挨拶にいこう。
お礼を言おう。
― 年が明けて1月 ―
【人事通達】 退職 土田 瑛士
?
えーーー!!!
うそやーーーん!!!
辞めてるーーー!!!
さっさと辞めてますやーーーん!!!
ボーナスもらってさっさと辞めてますやーーーん!!!
私より先さっさと辞めてますやーーーーーん!!!!!
土田さんはあっさり辞めていた(笑笑笑)。
この時期での退職ということは、研修の時点で退職は決まっていたはず。
あの時さっさと辞めること決めてたんかい!!!(笑)
あぶないあぶない、
私は、たった1回話しただけの人に、勝手に恩義を感じて罪悪感を感じて、自分の退職を否定しにかかってた(笑)。
そもそも自分の可能性を試したくて辞めるんじゃなかったん?
またそれ忘れてるやん。
ブッレブレやん!(笑)
そっかーーー、そういうもんなんやー。
「1度言ったからには、そのことばに忠実に生きる!」
みたいな、武士の生き方せんでもいいんやー。
人の一言を必要以上に律儀に受け止めてすぎてたなー。
しかも勝手に相手の気持ち妄想して、思い込み激しすぎやし!
そういえば私、こういう傾向はこれまでもあったかも。
もっと気軽に会話して、気軽に流していいんやなー。
なお、土田さんの名誉のために言っておくと、土田さんはいい上司だったそうだ。
土田さんを知る何人かの人に聞くとそう言っていた。
「何で辞めるかははっきり言わはれへんねん。いろいろ考えがあるんやろうな。いい人が辞めていくわー。」
さて、これでいかに私が純粋な魂をもった人間であるかが、おわかりいただけたことと思う。
誰が興味あんねん!(ギブソン風に)
いや、そうじゃなくて、それが言いたいのではなくて、
思いっきり他人軸だったのだ、私は。
人の言動を好意的に解釈するのは悪いことではないと思う。
しかし、好意や厚意を受けたとしても、それに引きずられて、自分の行動を制限されすぎるのは、やはりしんどい生き方だ。
このときの私は、ベースが迷いと不安だったから、人の言動に揺り動かされやすかったというのもあるが、
「人は大した考えなしにしゃべっている(ことも多い)」
「人はそんなに自分のことを気にしていない」
ということを実感させてくれたいい経験だった。
いや、「人はそんなに自分のことを気にしていない」で終わるのはちょっと寂しいな(笑)。
「だから、自分の好きなように生きていい」
そう、そういうことだ。
自分の、自分による、自分のための人生を生きよう。
それを学んだのだ。
笑い話だけど、私をまた1つ生きやすくしてくれた、いいできごとだった。
土田さん、新天地でお互いがんばりましょうね。
私の今の夢の1つは、社員それぞれみんなの魅力を引き出して、組織を活き活きさせる研修を、外部講師としてあの会社ですることなんです。